ウィリアム・フリードキンの「BUG」です。
モーテルで一人暮らしをしている中年女性(アグネス)のもとに
ある男(ピーター)が住み着くようになるのですが、ピーターが
来た日から、部屋中に虫が現れ始めて……というストーリーです。
ピーターも最初はちょっと神経質に見える程度なのですが
次第に血の中に虫がいるだの、歯の中に卵を産み付けられただの
軍に監視されているだのと意味不明なことを口走り始めます。
「虫」って時点でなんとなくわかると思いますが、恐らくピーターは
パラノイアで、虫云々は全て妄想なのでしょう。
こういう映画の醍醐味って、やはり知らない間に狂人の妄想に乗せられ
自分はあくまでも正常な一般人で、まかり間違っても狂人的な妄想など
には一切乗せられたりはしないと思っていたのに、何時の間にやら
狂人の妄想側に引き込まれていた!!…という、妄想に脳みそを侵蝕される
ような感覚というか、現実と妄想の境界がゆらゆらとしてくる感覚を
味わうことにあるのかなと個人的には思います。
そういう感覚を味わえる映画や小説は色々とあると思いますが例えば
安倍公房の「人間そっくり」なんかはまさにそういう感じの作品です。
安全な檻の外から狂人を見ているつもりが、なんだか自分の立場が
いつのまにか不安定になってきて、自分でも何が正常で何か妄想かが
分からなくなり、下手すると狂人の妄想にそのまま取り込まれて
しまいそうな、狂人の妄想に自分の脳みそが侵蝕されてしまうような
危ないスリルを味わうことができます。
映画でもこのような映画は多くありますがとりあえず思いつく有名なものだと
「ビューティフルマインド」が前半部分は終始狂人側の視点で描かれるので
中盤の種明かしで結構ビックリさせられますね。
他には作品ではありませんがこの感覚を手軽に味わえるもので
面白いのが「家の中にストーカーがいます」というやつです。
読んで頂ければ分かるのですが、自分は安全な現実側に寄って立って
現実側から狂人の奇行を他人事のように眺めていると思っていたら
実は自分の寄って立っていた方こそ妄想だった!?というこの天地が
ひっくり返ったような驚き、自分だけは常に正常な思考をしていて
狂人的な妄想に幻惑されることなんて無いと思っていたのに
知らずに狂人の妄想に何の抵抗も無く乗っかっていたというこの危うさ。
この現実と妄想の境目が分からなくなる怖さが「人間そっくり」や
「家の中にストーカーがいます」にはありますが、個人的には
こういうタイプの映画にはこの感じを重視したいところ。
この映画「BUG」も後半の医者との対話で多少現実か?妄想か?と観る者に
揺さぶりをかけてくるシーンもあるのですが、やはり「人間そっくり」等と
比べるとちょっと弱く、知らない間に妄想にまんまと乗せられていたという
「脳みそ侵蝕感」は薄いのかな?と思いました。
この映画その点が個人的に残念なところ。
とはいえ、それ以外の点では全体として見るとピーターとアグネスが
次第に狂っていき二人だけの隔離された空間の中で完全に
頭のおかしくなる様子は見ていてかなり面白く、演技も見事で
一見の価値アリなので妄想映画が好きなお方は
レンタル等で見かけたら一度は見ておいて損はないと思います。