立花隆「臨死体験」
上下巻で900ページくらいある相当分量の多い本ですが「臨死体験」について立花隆が科学的な視点で迫ります。
「臨死体験」というのは、一般的に病気や事故で死に瀕し、一度は心臓が止まるなどして「死んだ」とされたもののそ
の後なんとか息を吹き返し一命を取り止めた患者達が語る常識では考えられないような死後の世界の体験を言います。
有名なところでは「気が付いたら綺麗なお花畑にいて、死んだ両親と出会った」とか「川の向こうに死んだ友人がいて
『まだお前は来るな』と言われた」とか「暗いトンネルを光の方向目指して進んだ」とか、そのようなものが一般的な
体験のようです。「臨死体験」については、それは本物の「死後の世界」の体験であるとする「現実体験説」と、全て
脳内における単なる幻覚にすぎないとする「脳内現象説」で対立しています。こう言うと「臨死体験なんてそもそも真
面目に議論するようなことなの?」と思う人が大部分だと思いますが、まさにその通りで、「死後の世界」なんか存在
しないし、光のトンネルだの三途の川だのと言ったいわゆる「臨死体験」というものは、全て脳内における単なる幻覚
に過ぎないとする「脳内現象説」が最も有力で、科学者はもちろん、一般の人も多くがこの説を支持するのだろうと思
います。逆に「死後の世界」を存在すると考え「臨死体験」は死後の世界を垣間見た現実的な体験であるとする「現実
体験説」を支持する人はと言えば「心霊」や「UFO」などなど不思議大好きなオカルト属性、スピリチュアル属性を持っ
た極一部の人に限られるのかもしれません。そんな事情もあって「臨死体験」や「死後の世界」について書かれた本は
数多くありますが大抵がオカルト寄りでたいした根拠も証拠も無く、ただ個人的な主観と感情だけで科学的な考察は殆
ど全部すっ飛ばして即「臨死体験は死後の世界の証明である」「幽体離脱は霊魂の存在の証明である」的な安易なオカ
ルト的解釈に終始してしまっているようなものが殆どで、それではオカルト属性、スピリチュアル属性を持った人には
大きな説得力は持っても、そうじゃない大部分の人には何の説得力も無いのが悲しいところ。今回ご紹介する立花隆「
臨死体験」は、そのような従来のオカルトに傾きがちだったものとは一線を画し、科学的な観点から考察が行われる所
に大きな特徴があります。
話は大きくズレますが、僕はオカルト超大好き人間なので心霊も超能力もUFOも大好きなのですが、では信じるかと言わ
れれば、これは全く信じていません。ただ信じていないと言っても、単に僕がそのような心霊的な経験等をしておらず
未だ個人的に信じるに足りる根拠が存在しないから信じる理由が無いというだけの話で、僕の身の上に例えば幽霊の存
在を信じざるを得ないような出来事が起これば、これはかなり揺らいでくると思います。信じる信じないは置いておい
ても、一回くらいはそういう体験をしてみたいと、これは本気で思っています。だから僕は良くテレビで「幽霊アパー
ト」などが紹介されて、そこの住民が心霊現象で悩んでいる的な番組を見ると心底、本当に心の底から羨ましいと思っ
てしまいます。そんな一生に一度あるかないかの本格的な心霊現象を毎日のように体験できるなんて何という幸運かと。
なんて贅沢なのかと。自分がどれだけ最高に恵まれているかを理解しなきゃいけませんよと。そして1日でいいから泊
めてほしい!そして心霊現象が本当なのかどうか自分の目で確かめてみたい!…という気分になります。もし本当にそ
のような心霊現象を体験できるアパートにお住まいの方がいましたら本当に取材に行くのでメールください。
話を戻して、思うに死後の世界の存在を認めず、臨死体験も死に瀕した脳が見た幻覚に過ぎないとする「脳内現象説」
を採る大多数の人や科学者達も、「死後の世界」や「魂」を証明する科学的な確固たる証拠がまるで無いから「脳内現
象説」を採らざるを得ないというのが本当の所なんじゃないかなと思います。
僕も普通に「死んだら全てが無」だと考えているので、「臨死体験」なるものは全て幻覚であって脳内の現象に過ぎな
いとする「脳内現象説」を支持する人間の一人ですが、本心では「死後の世界」が存在するという「現実体験説」を応
援したい気持ちでいっぱいです。だってもし仮に「死後の世界」が本当に存在して、人間は死んでもまだまだ終わりじ
ゃない。死んで肉体は滅びても、魂(自我)はそのまま生き残って、存在し続ける…なんて説がもし仮に本当だったら
こんな嬉しいことは無いわけで、人間誰でも「死後の世界」が存在して嫌に思う人はいない筈。死んでもまだまだ続き
があるのですから。「脳内現象説」を支持する大多数の人も、本心では「現実体験説」の方に軍配が上がって欲しいと
思っている人も少なくはない筈(…と僕は思う)。とは言え、「死後の世界が存在してほしいから、証拠も根拠も無い
けど『現実体験説を』信じます」と、そこまで割り切って考えることができる人も少ないでしょう。本心では「現実体
験説」を信じたい。信じたいけど、それには何か科学的な「証拠」が欲しい。何か「現実体験説」を裏付けるような科
学的な証拠は無いか…???
筆者の立花隆は勿論「脳内現象説=全て幻覚」寄りの人ですが、やはり本心ではどうやら現実体験説(=死後の世界は
存在する)を応援したいと思う気持ちもあるようです。ただ当然「現実体験説」を信じたいからと言って、証拠も無し
に盲目的に「現実体験説」を信じることができる人でもありません。そこで、立花隆は「脳内現象説」では説明しきれ
ない「事例」は無いか、そのような事例がもし仮に存在するなら、それは「現実体験説(=死後の世界は存在する)を
支持できる有力な証拠になるのではないか?」との考えの下に、臨死体験で証言された様々な事例を詳細に検討します。
そして科学的な観点から殆ど全ての「臨死体験」の事例が「脳内現象説」で説明が付くと結論付けます。つまり残念な
がら(?)殆どの事例は「脳内現象説」で科学的に説明できてしまうようです。脳内現象で説明できたから即「脳内現
象説」が正しいとは言えないにしてもやはり「現実体験説」はかなりの劣勢のようです。
このように立花隆は、非常に様々な事例に当たり、殆どの事例は「脳内現象説」で説明できることを示しつつも、一方で
「脳内現象説」ではどうにもこうにも説明することができない事例(=現実体験説でしか説明できない事例)は存在しな
いかと探し続けます。もし、そんな事例が発見できれば、それは「現実体験説」の有力な証拠となるからです。
そこで立花隆が注目するのが「体外離脱」の事例です。臨死体験の経験者には、心臓停止中に体から魂だけが抜き出て、
天井辺りに浮いて横たわる仮死状態の自分を見たなどと証言する人が多く存在します。もちろん、これとて「脳内現象説」
はその「病室の上から横たわる自分を見た」ということ自体が脳内現象(つまり夢か幻覚)であると説明します。しかし、
立花隆は考えます。「体外離脱中に、本人が本来知りえない外部の客観的な情報を得て戻ってきた場合は脳内現象説では
説明できないのではないか?それは『現実体験説』の有力な証拠となるのではないか?」と。
後半から話題は主にこの「体外離脱」が中心となり、ここで「脳内現象説」では説明し切れない様々な事例が紹介されます。
ここでは有名な例として「マリアとテニスシューズ」という事例を簡単に紹介します。これは心臓発作を起こし仮死状態に
陥ったマリアという女性が、仮死状態の間に体外離脱をし病院の外3階付近に浮かんでいたという事例です。これだけだっ
たら「脳内現象説」で「全て幻覚である」の一言で片付くのですが、マリアは息を吹き返した後、親しい看護婦に体外離脱
中に、病院の3階の窓の下にすこしでっぱりがあって、そこにテニスシューズが置いてあるのを見たと話します。そのテニ
スシューズは青い色をしていて、一足だけで、小指の所が擦り切れていて、靴ひもがほどけて、ひもがかかとの下に入れら
れていたと非常に細かい所まで描写し、あの体外離脱が現実だったのか、それとも夢だったのかを知りたいから、3階のど
こかの窓の下に本当にテニスシューズがあるかどうかを探してみてほしいと看護婦に頼みます。マリアの病室は2階で病院
に心臓発作で運び込まれてからまだ数日経過しただけで、しかも最初から各種医療器具に繋がれた寝たきり状態だったので
病院の中を自由に歩きまわることはできませんでした。看護婦は半信半疑で外から3階を見上げながら病院の周りを一周し
たものの、そのような靴がある形跡はありません。最後に念のためと、3階の全ての部屋に入って実際に窓まで近づいて窓
の外を確認していくと、ある部屋で窓の外側の下のでっぱり部分にテニスシューズを発見したという事例です。
科学的な実験ではなくあくまでも証言なのでどこまで信じて良いのか分からない事例ではありますが興味深い事例であるこ
とに間違いはありません(ネットを調べるとこの事例についてもその後色々と否定材料が見つかったりもしているようでは
ありますが…)。とはいえこのほかサリバンさんの事例など、後半このような、「脳内現象説」では説明し難い事例が多く
紹介され、完全に優勢かと思われた「脳内現象説」にも弱点があることが示されます。
さらに体外離脱を科学的に証明しようと実験を重ねる研究所などの例も紹介され、単純に「臨死体験は全て脳内現象(=全
て幻覚)」と言い切ってしまっても良いものかどうかなかなか判断に困ることになってくるのです。
結局、立花隆がどちらの説を取ったのかは実際にお読みいただき確認していただきたいと思いますが、この本を読んだ筒井
康隆が「あれ読むと、臨死体験してみたくなる」と言っていた通り「脳内現象説」を信じるにしろ、「現実体験説」を信じ
るにしろ、この「臨死体験」を一度読んだ後では「死」に対する恐怖感が消え、むしろ死ぬのがちょっと楽しみになってき
ます。死ぬのが恐ろしい怖い嫌だ絶対に死にたくない…と考えている人ほど是非この本を読んでみてほしいと思います。
個人的に僕がこの本を読んで一番面白いと思ったのは下巻後半に登場する体外離脱を体験できると言われる「感覚遮断マシ
ーン」の所で、今本気でアレが欲しいです。